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2026.08.20

最高峰の画質「マルチショット撮影」を検証してみた

こんにちは、Hasselblad technical salesの黒川です。

 

業務から個人の撮影まで、日頃からHasselbladをずっと使用していますが、その描写や画質の高さにはいつも感心しております。ちなみに、個人的に使用するならば、好きなレンズは現行製品のレンズの中でXCD 1,9/80XCD 2,5/38V。販売終了製品の中ではXCD 3,5/30XCD 2,8/65が特に好みです。

 

XCD 3,5/30で撮影。湿度を感じるような柔らかな描写が好きです。

 

さて、皆様はX2D初代とX2DIIの「マルチショット撮影」という機能をご存じでしょうか。今回はこの機能をご紹介するとともに、実際に撮影したデータをもとに、通常撮影と比較してどのような違いが生まれるのか検証した結果をお伝えいたします。

  

マルチショット撮影とは

 

まずは、マルチショットについて紹介します。

 

ハッセルブラッドのマルチショットは、撮影ごとにセンサーを1画素分ずつ移動させながら複数回シャッターを切り、それらの画像を合成することで、通常撮影を上回る画質や情報量を持つ画像を生成する撮影機能です。この機能のメリットを理解するためには、ハッセルブラッドで採用されているイメージセンサーの仕組みについて知る必要があります。

 

カメラに搭載されている撮像センサー(CMOSセンサー)は、一般的に1つの画素がR(赤)、G(緑)、B(青)のいずれか1つの色情報のみを取得する構造となっております。これらの画素は規則的に配列されており、撮影後の画像処理において周囲の画素情報を参照しながら不足する色情報を補完することで、最終的なカラー画像が生成されます。この処理は一般に補間処理と呼ばれております。

 

ここで着目すべき点は、1画素あたりで取得できる色情報がRGBのいずれか1つに限られることです。より忠実な色再現を実現するためには、補間処理の精度向上や、1画素でRGBすべての色情報を取得できるセンサー構造の採用など、技術的な改善が必要となります。

 

この課題は多くのメーカーのデジタルカメラに共通するものです。各メーカーはさまざまな手法で対応しておりますが、その多くは画像処理エンジンや画像処理アルゴリズムの高度化によって色再現性の向上を図っております。

 

ハッセルブラッドの場合、独自のカラーマネジメントシステム「Hasselblad Natural Colour SolutionHNCS)」を開発し、人の目で知覚した色合いに近い自然な色再現を実現しております。一方、異なるアプローチの事例としては、SIGMAが採用していたFoveon X3センサーが挙げられます。「垂直色分離方式」という、1画素でRGBすべての色情報を取得できるセンサー構造を採用したカメラが過去に発売されておりました。

 

さて、今回のメインである「マルチショット」ですが、前述した課題に対するアプローチの一つであり、ハッセルブラッドは2008年にHシステムカメラでマルチショット対応モデルを発売しております。

 

その仕組みは、センサーを1ピクセル単位で移動させながら4回撮影を行い、それぞれの画像を合成することで、通常撮影よりも多くの色情報を記録するというものです。このセンサーシフト式のマルチショットでは4回の撮影で、それぞれのピクセルがR→G→B→Gの色情報を個別に取得します。そしてこれらのデータを結合することで、シングルショット時と比較して各ピクセルの色再現性が向上し、モアレの発生を抑えた高精細な描写が可能となります。

 

 

また、Hシステム最後のマルチショット機、H6D-400C MS6ショットマルチショット モードでは、上記の撮影フローに加えてさらに1/2ピクセル水平と垂直に動かして撮影した6枚を結合させます。

 

この画像は、シングルショットの4億画素に相当し、画像解像度としては最高の2.4GB 16-bit TIFF (23200 × 17400 pixel) 相当の画像を生成して、究極の解像度を生み出すことができました。

 

Hasselbladとマルチショットの歴史は他メーカーより比較的長く、この技術とずっと向き合ってきたメーカーでもあるのです。

 

X2Dシリーズのマルチショット撮影

 

さて、このようなメリットを持つマルチショットですが、202411月に実施されたPhocusおよびカメラ本体のファームアップデートにより、X2DおよびX2D IIでも利用できるようになりました。Hシステムの時と変わらず、センサーを移動させながらレンズシャッターで4回撮影を行う「4ショット マルチショットモード」が新たに追加されたのです。

 

以下、マルチショットの方法です。

 

〈必要機材〉
・最新ファームウェアのX2DまたはX2D II
 レンズはXCDレンズが望ましいが、他レンズ使用の電子シャッターでも対応可能
 ※電子シャッターの場合はストロボ同調撮影が不可となる点に注意

 

・最新のPhocusがインストールされたPCまたはMac
 Phocus動作環境を満たし、ある程度写真編集が可能なスペックが望ましい

 

・USB C-to-Cケーブル
 USB 3.0の高速通信可能なものが望ましい

 

・十分に安定する三脚
 撮影中、振動を極力抑える撮影環境が必要

 

  

〈撮影方法〉

① テザー撮影を行う環境をつくる。カメラは三脚に固定する。
・カメラとPCをUSB-Cで繋ぐ
・カメラの電源を付けた後、画面に表示される項目で「充電のみ/Phocus テザー」または「スキップ」を選択する
  

② PCまたはMacでPhocusを起動させる
  

③ Phocus画面内の右側から撮影メニュー開く(レイアウトがスタンダード設定時)
  

④ 画面内のオレンジボタンの下にある撮影の項目を「シングル⇒マルチ」に変更する
  

⑤ カメラに振動を与えないようにシャッターを切る(PC画面での操作が望ましい)

 


 


PCまたはMacでテザー撮影できる環境を整えて、振動を抑えて撮影すれば誰でも簡単にマルチショット撮影を行うことができます。ただし、4回同じ撮影を行うため、被写体が風景や静止物でないと効果を発揮しにくい点はご注意ください。

 

マルチショット撮影のデータ比較


マルチショット撮影によって期待できる効果は、より正確な色再現とモアレのない高精細な描写です。今回はその違いを検証するため、主に静物撮影を手掛ける写真事務所のご協力のもと、比較撮影を実施いたしました。

 

比較は、同一環境下で同じ被写体をシングルショット(以降シングル)とマルチショット(以降MS)の両方で撮影する方法で行いました。画像のようにさまざまな被写体を配置し、ブロンカラーでライティングしたうえで、X2D IIを使用して撮影しております。

 

 

左:シングル  右:4ショット MS XCD 3.5/120 macro SS:1/125 F/16 ISO:50

 

どちらも同じ1億画素ですが、RAWのデータ量は141MBと546MBで大きな差がございます。
それでは、各被写体をクローズアップしてみてみましょう。

  

まずは中央の本です。

 

 

シングルよりMSの方が、実際の本の緑色の部分は細部のコントラスト向上が見られ質感を再現し、中央の文字の白色もより色かぶりを抑えて記録されております。その下にあるモノクロ写真もMS側は非常に高精細かつ色の滲みもなく、コントラストも高いことが分かります。

 

 

右上の木の幹を見てみますとこちらも表面のザラザラとした凹凸が一つずつ立体的に見えるかのように丁寧に描かれています。

 

 

左上のレース生地です。非常に細かなパターンを持つためモアレが発生しやすい被写体ですが、シングル、MSともにモアレはほとんど確認できませんでした。一方で、細かな光と影のニュアンスや生地の立体感に着目すると、MSの方がより豊かに描写されている印象を受けます。コントラストや白の階調表現についても、マルチショットの方がわずかに優れているように見受けられました。

 

今度は細部がもっとわかるように、ハサミのみを大きく写して撮影してみました。

 

 

シングルで撮影したものと比べると、マルチ側の方が現場の環境に近い色が出ておりました。シングルよりもディテールが強く出ており、ハサミについた小傷の一つ一つにも立体感があるように見えます。等倍で確認すると、マルチショットで撮影した方はハイライトの部分などに合成処理後に発生したジャギーのようなものが見えますが、大きく拡大して使用しなければ特に問題がないレベルのように見えます。

 

 

総合的に評価すると、マルチショットの方がより色かぶりが少なく、細部の立体感が再現できていると感じました。マルチショットの恩恵である忠実な色再現性の向上がしっかりと発揮されていることが分かります。

 

マルチショット以外の特殊な撮影

  

Phocusを用いて撮影すれば、マルチショット以外にフォーカススタック撮影(被写界深度合成)もできます。テザー撮影と同じ方法で実行することができ、最大100枚重ねられ、フォーカス送りの調整幅も選ぶことができます。PC側で操作してフォーカスの位置の微調整も可能です。

 

 

なお、Phocusで撮影後のデータを合成することができないため、Helicon Focusなどの外部ソフトを用いて被写界深度合成処理を行うことで写真を生成できます。

  

まとめ

 

X2Dシリーズで使用できる「マルチショット」を用いることで、色かぶりを効果的に抑制し、より正確な色再現が得られることに加え、細部の立体感や質感描写の向上にも寄与することが確認できました。また、マルチショットで撮影したデータは、シングルショットと比較してより豊富な色情報を保持しています。そのため、現像やレタッチ時にも豊かな階調を維持したまま調整を行いやすく、被写体をより忠実に記録したい場面で特に効果を発揮する機能と言えるでしょう。

 

今回あらためて比較検証を行ったことで、シングルショットであっても極めて自然な色再現と高い記録性を備えていることが確認できました。これらの結果を踏まえると、通常の撮影ではシングルショットで十分に高品質な描写が得られますが、作品の記録性をさらに高めたい場合や、より厳密な色再現・質感描写が求められる場面では、マルチショットを活用することで、その性能を最大限に引き出すことができるでしょう。

 

最近では、Capture Oneとの正式な連携が発表され、今年秋にはテザー撮影への対応も予定されています。一方で、Phocusにはマルチショット撮影やHNCSを最大限に活用できるなど独自の強みがあります。それぞれに異なる特長を備えているため、撮影内容や目的に応じて使い分けることで、X2Dシリーズの性能をより効果的に引き出すことができると思います。

 

余談ではありますが、今回検証にご協力いただいた写真事務所では、現在もHシステムによるマルチショット撮影が現役で運用されています。そこで、せっかくの機会ということもあり、X2D II 100CH4D Multishotで撮影したデータを見比べてみました。

 

比較結果をご覧いただいたところ、「Hシステムと比べても遜色なく記録できている。それどころか、細かなディテールについてはX2D IIの方が良く見える」といった感想をいただきました。長年Hシステムを使われてきた方からこのようなお話を伺えたことは、今回の検証の中でも特に印象深い出来事でした。

 

今回の検証を通じて、X2Dシリーズのマルチショットには、まだ広く知られていない高い実力があることをあらためて実感しました。X2DまたはX2D II 100Cをお持ちの方は、ぜひ一度マルチショット撮影を試し、その描写をご自身の目で確かめてみてはいかがでしょうか。